提示系心理情報学における研究課題は「きたる常時情報閲覧環境において、我々はいかに提示情報に制御され得るのか、またそれをうまく活用したときに我々は情報閲覧でいかに健康に、幸せに生きられるのかを明かにし、その影響を定式化し、またそれを事前に予測可能とすること」です。ここで言う常時閲覧とは、「いつでも自分の視界の中にディスプレイやスクリーン等があり、電子的な情報が提示され続けている状態」のことを意味します。

コンピュータは人間社会に深く入り込み、装着あるいは保持したコンピュータから常時情報を得ながら生活することは一般的になりつつあります。例えば装着型ディスプレイを装着していると、画面を常時閲覧しながら生活するようになるでしょう。このような画面を常に閲覧する環境においては、画面の敗色や提示する数値、提示するオブジェクトの種類や形など、さまざまな要素がユーザの心身に継続的に影響を与えています。

たとえば、生体情報を常時閲覧している場合、虚偽情報の提示によりユーザの心拍値を制御できることを、私たちは実験によって明かにしています(文献1)。また、装着型ディスプレイに提示される情報やアイコンによって刷り込み効果が起こり、情報提示に関連した実世界オブジェクトに人間の注意が惹かれることが分かっています(文献2)。これらの研究成果から、情報提示の手法を評価する際には、単に閲覧効率や認知負荷を評価軸にするのではなく、人間の心身に与える影響をも考慮する必要があると、私たちは考えています。

このような、提示される情報が人間の心身に与える影響について、その原理の解明すること、および提示される情報の影響の予測を可能にすることが、提示系心理情報学における中心的な研究課題です。

具体的には、以下のような研究を行なっています。

  • ウェアラブルシステムやモバイルシステムにおける様々な情報提示方式と、心理・身体影響の関係の定式化
  • 提示される情報の影響をポジティブに活用した学習・スポーツ等を支援するシステムの開発
  • 提示される情報によって人間がネガティブな影響を受けないための、情報提示手法の安全性の評価手法の開発
  • 情報の提示方法によって人間の心身に与える影響がどのように異なるかを事前に予測する手法の探求

本分野における研究が確立することは、人間の心身に悪影響を与える常時情報提示機器が開発されることを未然に阻止するために不可欠です。情報提示の影響を体系化し、実証実験を通して信頼性の高いデータをすみやかに社会に提示することが重要であると、私たちは考えています。

文献1: 中村憲史, 片山拓也, 寺田努, 塚本昌彦: 虚偽情報フィードバックを用いた生体情報の制御システム, インタラクション2012論文集, pp.17-24 (2012). https://ci.nii.ac.jp/naid/110009579556